こんなはずじゃなかった。
何がしたいのが、どう生きて行きたいのか、目的もない毎日。
中学校を卒業して、周りから言われるままに、公立の工業高校と進学。
高校生になっても、特にやりたいこともないまま、アルバイトに精を出していた。
夏休みに神戸市内のガソリンスタンドでアルバイトをしたときのこと。
1カ月のバイトを終えた最終日、店長からバイト代125,000円が手渡された。
「125,000円!!!」
見たこともないような大金。15歳の少年は、バイト代を手にした瞬間に「覚醒」したという。
「もっと稼ぎたい!」
稼いだバイト代で買ったのは、140,000円の50CCバイク。
「バイクを自分の力で買ったという優越感を覚えました。お金を稼ぐということを意識したのは間違いないと思います」と振り返る。
稼ぐことに覚醒した浦﨑少年、いろいろなアルバイトを続けながら、ついに、その日がやってくる。
高校2年生の夏休み、今度は造園工事のアルバイトに。小中からの幼なじみが旅行に行く代わりのピンチヒッターとしてたまたま出会ったバイト。毎日、散水車から街路樹に水をまくだけの作業。簡単で楽。これで日当8,000円。受け取ったバイト代はこれまた、16歳の少年にはとてつもない大金だった。
親方は29歳。高校を途中退学し造園土木業を自分で興した人だった。
格好良かった。
「1分1秒を大事にしろ」「言いたいことは厳選して報告しろ」「働いたら金になる」「学歴やない」
一言、一言が少年の心に響いた。
「まさに、覚醒という言葉がぴったりでした。人生の目的を見つけたというか、高校に行っている場合じゃない、働こう、もっと稼ぎたいと思ったんです」
2学期、始業式。少年は夏休みに染めた金髪のまま登校する。
学校に行くなり、もちろん教諭の指導が入る。
「黒く染めてこい」
カチンときた少年はその場で退学届を書き、学校を後にする。
悔いは無かった。
後日談。このときの教師が、後に、わが子が通う高校に赴任していてクラブの顧問だと知った。
「世の中、おもしろいですね」と懐かしむ。